アドラー先生の心理学の続きの予定でしたが、時期的に今やっとかないと・・・と思ったんで、映画『君の名は。』の感想をちょっと。

なお、ネタばれはしない程度にお話します。

ざっとあらすじ

1,000年に1度のすい星来訪が、1か月後に迫る日本。山々に囲まれた田舎町に住む女子高生の三葉は、町長である父の選挙運動や、家系の神社の風習などに鬱屈(うっくつ)していた。それゆえに都会への憧れを強く持っていたが、ある日彼女は自分が都会に暮らしている少年になった夢を見る。夢では東京での生活を楽しみながらも、その不思議な感覚に困惑する三葉。一方、東京在住の男子高校生・瀧も自分が田舎町に生活する少女になった夢を見る。やがて、その奇妙な夢を通じて彼らは引き合うようになっていくが……。

はーい売れましたぁ

若いリア充カップルと高校生で、映画館がごった返してると聞いて、ひるんでレイトシアターで観てきました。

新海誠の作品群は、離れた男女がすれ違う『男の妄想』シリーズが多い。 「ただ、生活をしているだけで悲しみはそこここに積もる。」 独身男性が夜中に一人で酒を飲んでいて、ふと人寂しくなったときに、時折ポエマーになったりするのだが、それを映像化しちゃったみたいな感じが新海誠。 彼の作品を批判する人は、その『青臭さとロマンティスト』が嫌いなのだが、おっさんからすれば『いいんだよ青臭くてロマンティックなものが観たいんだよ』 なのだが、今回もまさにそんな感じの作品である。

ただ、まさか今回こんなド直球なストレートな作品をブン投げてくるとは思わなかった。

俺にとって新海誠とは「技術屋」であり「作家」である。ポスト宮崎とかポスト細田とか言われているのは何だか違う。そんな家族で見られるファミリー向けの作品 を作ってきたわけでもないし、細田や庵野のようなアニメスタジオ出身ではなく、元々はゲーム会社で美少女ゲームのグラフィックを担当していたのだ。 その後、会社を辞めてデビュー作をMAC1台でほぼ一人で作ったという異色のクリエイターなのである。ちょうどアニメがセル画からデジタルへと移行 しつつある時期だったから皆が驚いた。

では、通常のアニメの作り方とはどう違うのか? 『言の葉の庭』の一シーンを見てみよう。

主人公は高校生の男子なのだが、彼から見える大人の女性をミステリアスに演出するために光の当て方を工夫して描写しているわけだ。 『言の葉の庭』では雨のシーンが多いのだが、どしゃぶりだったり、天気雨だったり、とそのときの男女の心情や状況に応じて描写を変えている。 こんな風に丁寧に絵コンテを作っていく、と同時にセリフを入れていく。だから滅茶苦茶時間がかかる。通常のアニメよりもはるかにカット数は多いはずだ。

そして、言葉の使い方も繊細なのだ。
「この数年間、とにかく前に進みたくて、届かないものに手を触れたくて、それが具体的に何を指すのかも、ほとんど脅迫的とも言えるようなその思いがどこから湧いてくるのかも分からず、僕はただ働き続け、気づけば、日々弾力を失っていく心が、ひたすら辛かった。そしてある朝、かつてあれほどまでに真剣で切実だった思いが、きれいに失われていることに僕は気づき、もう限界だと知った時、会社を辞めた」

そういう作りなので、 『秒速5センチメートル』では、 恋愛経験の薄いアニオタの独自の解釈に、ちょっとだけ恋愛経験のあるアニオタが説教的に批判するみたいなマニアックなカオス絵図もネット上では展開されたりしてたのである。

こんな感じに脚本書いて、絵コンテを作って、作画もやってと何でも一人でやるとアホみたいな時間がかかるわけです。決して、量産型タイプではない。 エンディングのクレジットが『製作・脚本・絵コンテ・演出・監督 新海誠』ってなっちゃうんですよ。ディズニーのピクサーなら50人ぐらいこれで名前が出てきますよ。 だから、今回、初のメジャーで東宝の夏休み作品という大抜擢に「おいおい大丈夫かよ?」と実は心配していた。 まあ全国300館規模で神木隆之介くんもTVで宣伝しまくってたからある程度いけるとは思ってたけどこれほどとは。

確かに、新海誠作品の集大成みたいな感じで「ほしのこえ」のSF的な感じとか、電車ですれ違う感じは「秒速」だったりするし、 古典の先生の声は「言の葉の庭」の花澤香菜なのだが、 それをひとつにまとめたからといって1本の作品ができるわけではない。正直、短編はいいけど長編はどうかなぁ?と思っていた。

ところが大ヒットである。このままだとおそらく今年の国内映画の興行成績第1位。そして小説もバカ売れ、TSUTAYAでの新海誠作品のレンタル 数は通常の3.5倍になった。ちなみに本当か?と思ってGEOに寄ったら過去作品全部レンタル中だった。

おめでとうございます。売れましたね。よかったですね。 古くからのファンとしては、応援していたインディーズバンドがメジャーデビューしていきなりミリオンだしたみたいな感じです。

だけども、個人的には今回の作品はあんまり好きではない。ひとつには、夏休みのターゲット層である高校生向けを意識して、 ストレート過ぎる作りになったこと。これなら『あの花』チームがやっても結構ヒットしたかもしれん。 そしてRADWIMPSの曲がしつこい。ファンの方、すいません。でも4曲は多いです。ちょっとげんなりです。 しかも、曲に合わせて画面構成を変えているのがわかったので萎えました。

これで実績は十分過ぎるぐらい出来たんで次回はちょっと大人向けで頼みます。でも、また3年は待つんですよ、これが。

小説 君の名は。 (角川文庫)
新海 誠
KADOKAWA/メディアファクトリー (2016-06-18)
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