すすきのに飲みに行くことがまるっきりなくなった現在ではあるが、そこを通ることがなくなったわけではない。 買い物などで自宅から街中の繁華街へと最短ルートを通るなら、どうしたって周辺を通過することになる。 実は、なぜかこのルートの周辺に昔のオキニさんたちが何人も住んでいたのだが、もう会うことはない・・・と思っていたら 意外な女性とすれ違った。まちがいないアヤカ(仮名)だ。出会った頃、彼女は17歳だったが、今は30代半ばのはずだ。 すすきのを歩いている女性が、それが仕事なのか遊びできているのか?は服装と歩き方でわかる。まさにこれから仕事に 向かう歩き方だ。30代半ばで生きていくには、あまりいい条件は残されていないのだが・・・。

水商売や風俗が女性の貧困のセーフティネットとなっている、と以前に書いたが、まさに彼女もそうだった。 というわけで今回は口説きネタはおやすみ。貧困問題について考えます。

キャリアのない若い女性の場合

これから書くことは個人が特定されるとマズイので若干設定を変えていますが話し自体は一切盛っていません。 また、周囲に迷惑がかかるのでガチでヤバイ情報はあえて書いていません。

彼女は高校生になって、すぐに結婚した。しかし、夫のDVでやむなく離婚。 たいてい、この場合、実家に戻って「出戻り」となるのだが、両親は既に離婚しており、母親も水商売で働いていて、この頃には道内の飲み屋街を転々としていた状況だった。 しょうがなく、17歳で年齢をごまかしてススキノのスナックで働き始める。私が彼女に出会ったのはこの頃である。 キャリアのない10代の女性が働けて、かつ一人暮らしが出来る職業は水商売か風俗ぐらいしかない。 17歳で、元々、童顔の彼女は明らかに周りからは浮いていた。但し、わかっていても口に出さないのが夜のルール。 だんだんと店に馴染むようになっていったが、2年ほど勤めた後、店を辞めた。

彼女と再会したのは、ススキノの某ニュ-クラブだった。たまたま入った店で偶然席についたのが彼女だった。 「あれ?何でここにいるのよ?」「久しぶり!ねえ、指名入れてよ!私全然指名とれなくてヤバイんだよね!」 それ以来、私は彼女の指名客となるのだが、指名を入れたのはほんの気まぐれであり、熱心に店に通うことはなかった。 また、彼女は1年もたたずこの店を辞めた。

その後、おかしな男に捕まって、東京でアイドルの真似事みたいなことをさせられて、着エロDVDを数枚出すハメになり、 札幌に戻った。そしてまたススキノのニュ-クラブやスナックを転々とするようになる。

彼女のように店を転々と移るのを「てんてん虫」と言う。スナック⇒ニュ-クラブ(キャバクラ)⇒高級クラブへとステップを段階的に 踏んで”出世”していく女性は業界には好まれるが、「てんてん虫」はすぐに足元をみられる。いちいち最低ラインの条件で働くことになる。 さらに最初のニュ-クラブの店が、かなり大手グループの店であったため、顔出しで広告や情報誌にも出ていた彼女は、他大手グループの店で働く ことは例え空白期間があってもご法度。勤務先の条件を狭めてもいた。

20代後半になって、結局彼女は出張エステの店に勤め始める。それ以降の彼女がどうなったかはわからない。

残念ながら、彼女のように、自分を大切に守りながら去って次へ行くということが出来ない女性はすすきのには沢山いる。

それを可能にしているのが、時給制と日払いという給与システムだ。

一ヶ月丸まる働いて月給を貰うOLとは異なり、時給いくらで働き、日払いで給料が貰える。すると短期間で稼げてしまう。 フルで働かなくても月の1/3だけ働くシフトにするなんてことも可能なのだ。外食やタクシーにもお金は使うが、 一般OLの数倍稼げているわけではないし、貯蓄もない。外見上は貧困には見えないが、 自分の月収がどれくらいになるか把握できず、とりあえず来週シフト入れないとそろそろヤバイみたいな間隔でいる女性も いる。そして彼女たちのほとんどが確定申告などしていない。 アヤカ(仮名)の場合も、彼女が通常以上に稼げていたのは最初のニュークラブ時代ぐらいで、あとはそれほどでもない。

人間の想像力が及ぶ範囲とはひどく限定的なものだ。 都心の小ぎれいな新興住宅地で生まれ育った自己責任論者の人間にはわからないだろうが、北海道の場合、 労働力人口比率が低く、失業率も高い、なおかつ非正規雇用割合が高い。女性の非正規雇用の割合は6割近くで、貧困率も高い。 雇用にいたっては全国では沖縄の次にひどい状態なのだ。札幌はともかく地方では雇用は崩壊しているといっていい。だから、家を出てキャバクラの寮に入って働く地方出身者の女性が絶えない。 都会に出てきたはいいがお金に困り、ネットカフェとラブホテルを渡り歩き夜の仕事を探し続けるものもいる。

水商売や風俗という商売は、若くてスペックが高ければ稼げるものではあるが、歳を取るにつれて条件は悪くなる。 病気やケガをして働けない期間ができると、その分は無収入。足の親指を骨折して全治一ヶ月でギブスを するハメになった昔のオキニは「ヒールが履けない」という理由でシフトから外された。2週間後、 無理やりギブスを外し、ガムテープで親指がズレないようにグルグル巻きに固定して出勤した。

ある日、突然昼の仕事をしたくなっても夜の経歴は履歴書には書けない。すると「働いていない」空白期間ができるわけだ。 これを企業が嫌う。現状、水商売や風俗で働けなくなった、もしくは最悪の状況になって他の職に就きたくなった としても、ここを抜け出せる出口はあまりない。どこかの金持ちの客でもみつけて結婚するぐらいしか手段はない。 そして本当の貧困は「水商売や風俗のその後」に突然訪れるのだ。

こういうことを書くと必ず『そんなの自己責任ガー』って反論する人がいるけど、確かに彼女の生き方は彼女が選んだのではあるが、 貧困を抜け出す出口が常に世の中に用意されているってわけでもない。
アビジット V. バナジー &エスター・デュフロ「貧乏人の経済学」
『貧困の罠から抜け出す梯子(ハシゴ)は存在しますが、それが適正なところにあるとは限らないし、人々はその梯子(ハシゴ)をどう上がればいいのか分からず、さらには上りたいとすら思っていないようなのです。』

自己責任とやらで放置されたヤンキーはやがて大人になり、闇金やオレオレ詐欺をやっている。 空腹の前では規範や道徳などは無力だ。 人間なんて3日も食べなければ、4日目には万引きするか他人のものを盗むか奪う。自己責任論を展開する人は、奪われる対象が自分ではないとなぜ言い切れるのか?

だが、貧困を抜け出した女性もいた。

女子大生キャバ嬢

「大学受かったよ!これで4月から女子大生だよ!」リンカ(仮名)からそんなメールを貰った私は「マジか?スゲーな!」と感嘆するしかなかった。 まさか、本当に受かるとは思っていなかったからだ。しかも受かったのは北海道でも偏差値トップクラスの女子大なのだ。

彼女は母子家庭で育った典型的な相対的貧困家庭(世帯の可処分所得の中央値に満たない)の子供であった。 高校3年のときに、周囲のほとんどが進学を選ぶなかで、大学の費用を捻出できない彼女は就職を考えるしかなかった。 だが、高卒女子が働ける職種はごく限られたもので、飲食やコールセンターなどブラックな匂いのするものばかりだった。 なかなか就職先を選べず、何より納得がいかないのは、学校の成績が悪いわけではなく、家が貧乏というだけで自分だけが進学できない状況 に腹が立った。そこで彼女が下した決断は1年受験浪人をして、大学の費用はキャバクラで働きながら貯める、というものだった。

昼は受験勉強をして、夜は週3日キャバクラで働く生活を1年続けて、見事大学に合格。 大学入学後も学費を稼ぐためにキャバクラで働いた。貧乏で飼えなかった犬も手に入れて、夏休みには親を連れて海外旅行へも行った。

彼女は貧困を抜け出す梯子を自ら見つけて抜け出したわけだ。 夜の世界では、彼女のようにしたたかに生きていくか、しかるべき機関に相談しサポートを受けたりできる女性はほんの一握りに過ぎない。

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